執筆者:茨城県立こども病院 外科
                               連 利博(むらじ としひろ)
胆道閉鎖症
 初めに
胆道閉鎖症の診断が下された時からご両親にとっては全く未知の経験が始まります。情報の洪水の中で自分自身が判断せねばならないことも多く、主治医からの説明が十分であったとしても、ご両親は自ら情報収集にあたりたくなるものでしょう。病気を理解することは、不安の解消に繋がることになるに違いありません。この病気は難病に指定されているように難しい病気であり、自分の肝臓(自己肝)で肝移植に頼らず健常者と変わらない生活のできる子ども達は現在のところ半数ぐらいです。この病気の克服のためには、医療者と家族が一体となって力を合わせて患児の治療、養育にあたらねばなりません。
最近はインターネットで情報収集が容易になりました。このホームページでは、最初に診断されたときから次々と遭遇する多く問題についてその概要を順に整理し、出てくる用語をその都度リンクして別項目で説明するように整備しました。ここから得られる情報が皆さんの主治医との話しあいの一助となれば、大変嬉しく思います。不足する部分などご意見がありましたら、守る会にご連絡ください。最新の情報やより良いものを提供していきたく思います。

 概要
この病気の発生頻度は1万出生に0.5〜3人という比較的稀な疾患で、白人に少なくアジア人に比較的多くみられます。日本では1万出生に1人で毎年約100人の新しい患児が生まれています。この病気は手術をしないと平均2歳で死亡するという難病です。この病気の原因[1]は未だ解明されていないので、原因に基づいた治療が行われているわけではありません。

 診断のきっかけ:
胆道閉鎖症は黄疸の持続や灰白色の便[2]をきっかけとして発見されることが多いのですが、時に頭蓋内出血[3]による痙攣をきっかけとして見つかることもあります。一般に生後2ヶ月ぐらいで手術されることが多いのですが、基本的には早ければ早いほど手術成績もよいと考えられています。実際、3ヶ月以降の手術となると、胆汁が排泄され便が黄色くなり黄疸が消えても肝硬変と呼ばれる病態に進行することが多いので、この病気が疑われたら迅速に術前検査[4]を進めるのですが、最終的には確定診断は手術をしてみないと判りません。このように早期発見[5]が重要ですが、世界的に見てもなかなか実現していないのが現状で、胆道閉鎖症の子どもを守る会は1ヶ月健診に関わる産科医や第1発見者となる小児科医の注意を喚起しているところです。

 外科治療:
手術は、開腹により本来胆管が存在すべき肝門部の線維塊を切除し、その部位に腸管を縫い付け、胆汁の染み出てくるのを腸管で受けるという葛西手術[6]を行います。東北大学故葛西名誉教授が開発した手術なので、世界中で葛西先生の名前を冠してKasai手術と呼ばれています。術後は胆汁排泄を促進する利胆剤[7]を使用し、胆汁が安定して排出されるように努めますが、排出路が繋がるまでには3,4週間かかると考えられており、肝機能の改善の程度にもよりますが、順調であれば1ヶ月以内に退院ということになります。施設によって基準はことなりますが、退院の目標を黄疸消失とすると、血清総ビリルビン値では2.0 mg/dl台ということです。外来ではウルソと脂溶性ビタミン(A、D、E、K)を補充しつつ、肝機能[8]をフォローしていくことになります。特に最初の1年間は腸内のばい菌が肝臓に入りおこる胆管炎[9]には最大の注意をはらい、胆管炎が起こった場合には早期に治療開始ということになります。

 術後経過:
胆汁排泄が十分で黄疸が消失し順調に経過する場合は、外来通院で定期的な採血による肝機能検査を受けて患児をただ見守るだけになります。胆汁の流れが悪るくなると胆管炎になる可能性が高くなるので、順調な場合でも利胆剤により常に最大の胆汁流出を維持したいものです。本症患児に対しよく処方される薬を表[表1]にまとめましたので、参考にしてください。また、胆汁排泄障害における栄養管理[10]については多少の知識は持っておかれたほうがいいでしょう。また、胆管炎が頻発する場合、肝臓内に胆管が破壊され胆汁の溜まる袋のような嚢胞が形成される、もしくはされていることがあるので、画像診断によりその状況を追っていかねばなりません。
一方、葛西手術後6ヶ月以内に黄疸が消失せず、持続または増悪する場合、肝移植[11]の準備を開始し、成長が止まる前に移植に踏み切るのが理想的でしょう。葛西手術後、一旦黄疸が消失した後再発したような場合、1回目の葛西手術が特に遅れたタイミングでなければ、再手術を考慮する場合もあります。再手術の成功率は約50%と報告されており、一般的には肝移植が日常の臨床の治療手段となった現在、再手術には慎重になっています。

 中長期的な経過:
胆汁が十分に排泄され黄疸が消失していても、肝硬変が徐々に進行することはまれではありません。学校や社会生活における注意点[12]など、同じ病院の患者家族からなる守る会などの情報は医療者からは聴けないような話もあり、ずいぶん参考になります。また、本症の長期生存が増加してきた今日、すでに社会人として働いている患者さんたち自身のご意見[13]も聴くことができます。肝硬変が徐々に進むと、肝臓が腫大し上腹部が張り、脾臓も大きくなってきます。この場合、門脈圧亢進症[14]に起因するさまざまな続発症,例えば、食道静脈瘤[15]、脾機能亢進症[16]などに悩まされながらやがて肝不全へと向かうことになります。また、肝肺症候群[17]と呼ばれ、肺でのガス交換に影響を与えることもあります。このように、治療成績は未だ満足できるものではなく、思春期に到達するまでに約半数の患児達は肝移植を必要とするのが現実です。わが国の臓器提供者は圧倒的に両親など近親者による生体部分肝移植でありドナーのリスクも伴うことを認識しなければならないことと、現時点では20歳を過ぎると小児慢性特定疾患の適用からはずれることになり、免疫抑制剤は通常の保険適応の範囲となるので、患者家族にかかる経済的負担は大きくなることです。長期生存の女性では、妊娠、出産[18]という体力的に負担のかかる人生の節目を越えなければなりません。成人に到達する患者さんたちも最近増加傾向にあり、それぞれの施設でその対応について検討が始まっています。

 予後:
日本胆度閉鎖症研究会で報告されているわが国の成績(術後2年以内の短期成績)は、生後30日以内に葛西手術が行われた場合の黄疸消失率が約70%、黄疸再現率は20%と最良で、生後31日から90日での黄疸消失率は55〜60%、黄疸再現率は30〜40%と15日ずつ細分化しても、この間には大差はない成績です。
一方、生後91日以降の手術では黄疸消失率は50%に届かず、逆に黄疸再現率は約50%と高いのです。したがって、例えば患児が生後120日以降で、適合するドナーがいれば、葛西手術より一期的肝移植を推奨することもあり、この場合ご両親と小児外科医、移植外科医との十分な話あいが重要です。
なお、本症は比較的稀な疾患であるということで、イギリスでは葛西手術を施行する施設が3ヶ所に指定されています。わが国では多くの専門施設でも年間1、2例です。多い施設でも年間4、5例の手術経験しかないのです。本症は年間数10例、数100例を経験するような疾患ではありませんので、一般成人などで言われているように手術症例数の多いところが成績がよいのかどうかも不明です。これまで学会や研究会などで本症に関わる手術手技や術後管理は十分に検討されており、小児外科指導医が常勤する小児専門施設なら同じようなレベルの手術がなされているのが日本の特徴だと思われます。

 最新の動向:
この20年間、小児外科医は肝移植の確立に邁進してきました。肝移植は今日日常の治療手段となりましたが、自己肝で生存できることが本人や家族のみならず経済的にも好ましいのは明らかです。本疾患にかかわる医療者の次世代の目標は、患者の自己肝生存であり、長期生存者のQOL改善です。以下に努力目標を掲げます。患者・医療者が一体となってこの難病に立ち向かいましょう。
  • 早期発見の促進:生後1ヶ月以内の葛西手術を目指す。
  • 手術成績の向上:手術手技や術後管理のさらなる改善のためには、エビデンスのある治療を追求することであり、そのためには各施設が連携し、同じ目的をもった臨床研究を国内はもとより世界的規模で行うこと。
  • 社会的支援の充実:長期生存者が増加し、特に肝移植を受けて成人する場合も今後増加する。小児慢性特定疾患としての公費負担支援制度の見直しが必要である。
  • 病因の解明:病因の解明が将来的には必ずやより効果的な治療につながると思われる。それには、資金の投入と国際的な協力が必要である。

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 注 釈
1. 原因:
 a.外因的環境説(病原体による感染などによる障害)、b.発生異常説(胎児の肝臓が形成されるときの障害)、c.免疫異常説(何らかのきっかけで免疫学的なメカニズムが働き胆管の発生が障害される)の3つに大別されますが、多脾症など脾臓に関連する合併奇型を有するタイプも10%前後に見られるので、この病気は発生過程のどこかで異常が起こったとする先天的な疾患グループ(胎児型)と何らかの胎内で起こる後天的な原因で疾患が成立する(周産期型)の二つが混在していると考えられています。
  1. 外因的環境説:ウイルスとしてこれまでcytomegalovirus, reovirus type 3, rotavirusなどの様々な報告がこれまで見られましたが、未だに特定されていません。ハワイでの民族別にみた発生頻度の差が報告されていますが、人種により発生頻度が異なるので(1万出生中、白人:0.6、日本人:0.8〜1.0、中国人:3.0)、環境因子は否定的とされる意見もあります。
  2. 発生異常説:妊娠8週の肝臓の門脈周囲に胆管が形成され始めるのですが、その頃の何らかの障害で、胆管は破綻し肝内胆管に炎症が生じるとする仮説(ductal plate malformation theory)。
  3. 免疫学説:自己免疫疾患としての硬化性胆管炎や骨髄移植におけるGvHDなどの肝病変と病理学的所見が類似していることから想定されてきました。また、最近、妊娠中に胎盤を通過して胎児へ移行した母親の免疫担当細胞が免疫学的な障害を与えた結果、胆管が閉塞し胆道閉鎖症となるという仮説(maternal microchimerism)が報告されつつあります。
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2. 黄疸と灰白色便:
 胆汁の排泄経路に閉塞がある時、胆汁はうっ滞し、肝臓から胆汁色素が逆流して血中に入り、黄疸と呼ばれている体が黄色くなる状態が出現します。血清総ビリルビン値というのが黄疸の指数ですが、3mg/dl以上になると白目が黄色くなり、黄疸として認識できるようになります。一方、胆汁が腸管に流れないので便は白っぽくなり、本症の特徴として灰白色便が重要な兆候として認識されていますが、特に初期には完全に白くなることはむしろめずらしく、黄色調を示していることが多いようです。このことが早期発見を遅らせている可能性があり、本症の便の色調は淡黄色と訂正したほうがいいのかもしれません。
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3. 頭蓋内出血:
 胆汁のもう一つの成分である胆汁酸が蓄積すると肝臓が障害されます。胆汁が腸管に排泄されないと脂肪吸収が悪くなるので、患児はクリームのような白色のべっとりとした脂肪便を排便することになります。また、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなり、とくにビタミンKが低下すると出血傾向が見られるようになり、場合によっては重症な頭蓋内出血で発症することもあります。この場合、ビタミンKの投与とともに、凝固因子を含む血液製剤を点滴し、脳外科医により血腫除去術などが遂行され、その後安定すればできるだけ早く葛西手術を行います。
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4. 術前検査:
 診断は血液検査で直接ビリルビン値が上昇し、超音波エコーで肝門部に線維組織塊や胆嚢の萎縮が見られ、哺乳によっても胆嚢が収縮しないという所見のどれかがあれば、それだけで疑いが濃厚と考えられます。肝機能検査としては、閉塞性パターンを示し、直接ビリルビン値の上昇以外に、逸脱酵素のAST(GOT),ALT(GPT), またγ-GTPの上昇(早期の場合、正常範囲のこともある)があります。他の検査、たとえば十二指腸液検査または肝胆道排泄シンチグラムもあるが、いろんな検査を組み合わせても確診にいたることはなかなか難しく時間がかかるだけなので、ある程度のところで開腹し、胆道造影と肝生検を行うこともまた重要です。術中胆道造影で、肝内胆管が造影されないか、されても正常の樹枝状分岐像は無く、雲状ないし斑状陰影を呈する場合は本症と診断が確定します。
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5. 早期発見:
 一般的傾向として早期に手術をするほど、肝臓は傷んでないわけなので好結果が得られると考えられます。ではどの程度の日令を早期と呼ぶかというと良くわかっていませんが、一応30日以内の手術成績が良いとの報告(研究会登録では黄疸消失率が65%)もあり、生後30日までを早期発見例と一般的に認識されています。日本では多くの症例が生後60日前後に手術が行われています。またその成績は30日以内で行われるよりやや落ちますが(黄疸消失率:55〜57%)、決して悪くないと思われます。一方、例外は常にありますが、90日を過ぎて手術をしてもその成績は明らかによくありません(黄疸消失率:46%)。早期治療が必ずしも「治癒」のための十分条件とはならないのですが、早期発見と適切な治療がなされなければ、自己肝での長期生存は難しいということは言えます。 残念ながら、この傾向は過去10年間ほとんど変わっていません。ということで、早期発見、もしくは少なくとも3ヶ月以降の発見を減らすための努力が今後必要です。もう少し詳しく早期発見が難しい理由を以下に考察します。
  • 黄疸:生直後には生理的に黄疸がでるものであり、また母乳栄養児には黄疸がでることもよくあることなので、症状からこの比較的稀な病名診断に結びつかないのが現状です。採血して直接ビリルビン値の検査をすれば大体わかるのですが、1ヶ月健診で稀な疾患のために採血するまでは通常行いません。その点尿検査が優れています。
  • 便色:胆汁が出ないと便の黄色が淡くなり、白っぽくなります。便が白くなれば診断に直結するのですが、色は主観的で、患児の親のみならず医師もその判断に苦慮することがあります。診断のフロントラインにいる産科医や小児科医にとって、「胆道が閉鎖している」という病名からすると「胆汁がまったく流れないはず、したがって便は必ず白くなる」と考えてしまうのかもしれません。便色を診断の根拠としてしまうと、例えば1ヶ月健診で便が少しでも黄色であれば本症でないと否定されてしまうことになり、かえって診断が遅れることにもなりかねない。すなわち、便の色は緩やかに白色調を帯びてくるもので、診断のきっかけとなりにくいと認識しておいたほうがよいのかもしれません。一方で、便色で発見できれば最も安価でそれにこしたことはないので、便色調カラーカードという便色の見本を示すカードが開発され、これまでいくつかの地方自治体で採用され、客観的な指標のもとに一定の効果も得られています。しかし、たとえ便色を客観的に捉えることができたとしても、本症の約30%に生後しばらくは便は黄色調であったとの報告からすると、便色は必ずしも早期診断の決め手にならないのであろうと思われます。ただ、3ヶ月以降の発見症例を減らすことができると思われます。
  • 現在試みられている新たな検査
    1. 直接ビリルビン値の測定:これは以前より使われている検査ですが、採血が必要です。どのようなタイミングでどのような時にどこで採血してもらうのかが検討され始めました。偽陽性がどのくらいになるかも研究されています。
    2. 尿中硫酸抱合型胆汁酸(USBA)測定:胆汁うっ滞により胆汁酸が蓄積すると肝臓を障害する。生化学的には胆汁酸は硫酸抱合されると水溶性となるので、胆汁酸は、こちらの代謝経路が活発化し腎から尿中に排泄されるようになる。そもそも成人での肝疾患を尿検査で発見しようと開発されたものです。臨床検査として簡便で感度も高くすでに保険適用された検査法で、採尿キットもあるので、これだと1ヶ月健診までに自宅で両親によって行うことも可能となります。現在、1ヶ月以内の発見を目指して生後3週ごろにこの検査を利用しようとする早期発見のための研究会が組織され検討されています。
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6. 葛西手術:
 タイムリーな手術により胆汁を消化管に誘導することが治療の第一歩です。胆汁は肝細胞によって産生され、肝内外の胆管の中を通って十二指腸に流れ出るのですが(図1)、本症ではその肝内胆管は細く肝外胆管が閉塞し索状物に置き換わっていて、胆嚢は萎縮していることが多いのですが、胆嚢が正常の大きさを示すタイプもあります。肝門部の形態でいろんな病型に分類されますが、共通することは肝内胆管が造影されたとしても正常な分枝形態にはなく、不規則な枯れ枝状、もしくは雲状のもやもやした構造物が認められ、またそれらが十二指腸へと繋がっていないことです。
この手術は肝門部空腸吻合術とも呼ばれ、肝門部の線維組織塊を切断し、空腸を縫い付けて胆汁を誘導し、食物の通過する本流に合流させるものです(図3)。その本質は肝門部の線維組織塊の中に埋没した100μ前後の胆管からしみでてくる胆汁を腸管で受けるというものです。したがって、胆管と腸管とは粘膜・粘膜吻合されていないため、肝臓と腸管との間に道が形成される(瘻孔と呼ばれる)までの術後約1ヶ月間はできるだけ多くの胆汁の流れを確保することが重要です。
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7. 利胆剤:
 葛西手術後早期の管理として、2,3週間は抗生剤、1ヶ月は副腎皮質ステロイド剤やその他の胆汁排泄を促進する利胆剤が使用されます。利胆剤の最近の使用状況は、日本胆道閉鎖症研究会の全国登録集計によると、ステロイド(プレドニン)とウルソデオキシコール酸(ウルソ)がほぼ90%、デヒコール50%、プロスタグランジンE2が30%でした。
  • ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、成人に見られる原発性胆汁性肝硬変という疾患に対して前方視的ランダム試験(客観的で信頼度が高い)で有効と確認されている利胆剤であり、本症にも効果があると経験的に考えられています。特に胆汁排泄が確保された長期生存患児の中で、ALT(GPT),AST(GOT),γ-GTPが上昇している症例で投与すると肝機能は改善し、体重増加に伴って投与量が10mg/kgを下回ると肝機能が悪化し、投与量を体重にみあうように増やすと再び肝機能が改善するということを日常の診療で経験します。長期的投与が自己肝生存にどの程度貢献するかどうかは今後の検討が必要です。
  • ステロイド療法
    1. ステロイドが本当に胆汁排泄を促進するかどうか、またするとすればどのような機序なのかはまだ明確にはなっていない薬剤です。効果があるとする論文が優勢ですが、前方視的に得られたエビデンスは限られています。また、投与量、投与開始時期、投与期間などについては各施設でまちまちであり、現在この点が注目されていて、効果の有無を調査したり、適切な投与量を求めて多施設による統一された臨床試験が各国で行われています。
    2. 日本での多施設ランダム化試験:ステロイドは免疫を抑制するのでサイトメガロウイルスの感染を活発化したり、創傷治癒を妨げたり、消化管出血を惹起するなどの副作用があり、使用には注意が必要な薬物です。そこで、術後7日目からステロイド投与開始量が4mg/kgの群と2mg/kgの2群に分けられて、術後1ヶ月間だけに限られた試験期間内での効果の有無と副作用の程度を検討しています。患者さんの協力なくしては実現できない研究ですので、主治医のお話をよく聴いて上で、ご理解いただけたらぜひとも協力いただけるようにお願いします。
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8. 血液検査について:

 @肝機能検査の読み方
  • 総ビリルビン(T.Bilirubin):黄疸の指標で、肝臓が良く働いている目安となる。肝臓の働きそのものが衰えると直接ビリルビンと間接ビリルビンの両方が上昇する。
  • 直接ビリルビン(D.Bilirubin):総ビリルビンのうち、肝細胞で分泌されたビリルビンのことで、胆汁の流れ道に狭窄や閉塞があれば上昇する。
  • 血清トランスアミナーゼ(アスパラギン酸)[AST(GOT)]:肝細胞、筋、心臓、赤血球に多い。それらの臓器の損傷があれば逸脱して血中に出てくる。(逸脱酵素と呼ばれる)。
  • 血清トランスアミナーゼ(アラニン)[ALT(GPT)]:肝細胞に多い。肝細胞の損傷(炎症など)があれば上昇する(逸脱酵素)。
  • 乳酸脱水素酵素[LDH]:肝細胞、心筋、筋、脳、肺、血球、腫瘍に多い(逸脱酵素)。
  • グルタミールトランスペプチターゼ(γ-GTP):肝細胞内のミクロソームや毛細胆管膜、腸上皮内に多量に存在する。胆汁うっ滞、アルコール性肝障害、拒絶反応時に上昇する。
  • アルカリフォスファターゼ(ALP):肝臓の毛細胆管、骨芽細胞、小腸粘膜に多い。胆汁うっ滞で上昇する。
  • ロイシンアミノペプチターゼ(LAP):肝、胆道粘膜、リンパ球、腎に多い(逸脱酵素)。
  • 血清コリンエステラーゼ(Ch-E):肝細胞で合成され、肝の蛋白合成能の指標となる。肝硬変、栄養障害、毒物による中毒で低下する。
  • 総コレステロール(Chol):肝による合成、胆道からの排泄、腸管からの吸収により影響される。脂質代謝異常、動脈硬化の指標(LDL-CとHDL-Cに分けて検討する)となる。胆汁うっ滞時には上昇する。肝硬変が進行すれば低下する。
  • 膠質反応(ZTT):ガンマグロブリン量と比例し、肝硬変で上昇する。
  • C反応性蛋白(CRP):組織破壊によりIL-1、TNF-αが分泌され、肝臓で産生される。身体に炎症がある時に上昇し、肝不全時には低下する。
  • 総胆汁酸:胆汁分泌が良好であり、回腸での吸収が良好であれば正常値となる。
A血球検査
  • 白血球数(WBC):組織壊死がおこると増加する。ウイルス感染では減少する。
  • 赤血球数(RBC):貧血があると低下する。
  • ヘモグロビン(Hb):貧血があると低下する。
  • 血小板(PLT):脾臓が腫大し、脾機能亢進状態になると減少する。
B血中濃度
  • 免疫抑制剤プログラフ(3-11ng/ml)とサンディイムン/ネオーラル(100ng/ml以上)
     (トラフ値:最も低下している時点での値)で判定する。
  • 各種ビタミンの血中レベル:A、D、Eなど。(Kは血液凝固時間で推測する。)
C各種ウイルスの抗体価

    麻疹、水痘、HBV、HCVなど。
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9. 胆管炎:
 葛西手術後は肝門部の肝臓表面に腸管が直接縫合されているので、腸内細菌が肝臓内に逆行性に上行し肝内胆管で感染を起こしやすい。これを胆管炎と呼んでいますが、このメカニズムは特定できているわけではなく、細菌は血液中から血行性に胆管に到達し感染を起こす可能性も考えられています。
(症状):肝機能障害の悪化と発熱で、年長児では右上腹部の疼痛を訴えることがあります。
(治療):腸管内圧を上げないために絶食とし、点滴で抗生剤を投与する。効果があると通常数日で解熱します。繰り返す場合は、すでに肝内胆管が破壊され、胆汁の貯溜する嚢胞が単発にもしくは多数形成されていることがあるので、エコーや造影CTで確認する必要があります。胆管炎は早期に治療を開始しないと、敗血症に移行したり不可逆的な肝障害に陥ることがあるので注意しなければなりません。
(予防策):胆汁分泌が悪いとそれだけ細菌は逆行しやすいと考えられので、脱水や腸閉塞には気をつけなければなりません。手術として、肝臓に直結する空腸(ルーY脚)を長くすることが多数の施設で行われています。ルーY脚に逆流防止弁を作成することは試みられましたが、胆管炎を防ぐ有効な付加手術とはなりませんでした。何度も胆管炎を起こす症例にはルーY脚の癒着剥離が奏功する場合もあります。
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10. 栄養管理:
 胆汁は肝臓から分泌され、総胆管を通って十二指腸内へ流出します。手術により良好な胆汁の排泄がえられた場合、栄養上の深刻な問題はありません。手術後胆汁排泄が悪いと胆汁酸もミセル形成濃度に達しない場合、脂肪の吸収が障害されて、栄養・成長発達に影響を及ぼします。脂肪の欠乏はエネルギー不足となりやすく、体重増加不良の原因となります。また、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収が障害され、これらの物質が体の中で欠乏する。これについては、脂肪吸収に胆汁を必要としない中鎖脂肪(MCT)を中心とした特殊ミルクにするのも1つの方法です。また、脂肪の一種で、人体にとって欠くことのできないリノール酸とアルファリノレン酸の必須脂肪酸の欠乏も起こり、感染に対する抵抗力の低下など種々の異常が起こってくる。脂肪酸の中にはEPAとDHAがあり、胆道閉鎖症児ではこれらのいずれも不足している事が最近の研究からわかっており、DHAは大脳や網膜を作っている成分の30%を占める重要な脂肪酸で、これが不足すると脳の発達や視力に悪い影響を及ぼすと言われている。ビタミンA欠乏は目の異常、D欠乏はくる病(骨折しやすい)、E欠乏は末梢神経の異常、K欠乏は血液凝固因子の不足を招来する。また、カルシウム・鉄・亜鉛なども不足しがちである。胆道閉鎖症におこりやすいこれらの栄養障害を考慮し、これらの補充ができる食事メニューを管理栄養士に指導してもらうのがよいと思います。
  • 乳児期
    1. ミルク:
       母乳栄養児は、その後も母乳栄養を継続することが望まれます。母乳中には乳児にとって大切なさまざまな物質が含まれていますが、例えば、十二指腸の胆汁酸濃度が低くても脂肪の吸収を助ける働きのある物質、母乳リパーゼもそのひとつで、事実上母乳の吸収は人工乳に比して良好です。
    2. 離乳期:
       離乳は、乳汁の栄養から幼児食に移行する過程の食事です。機能としては、乳汁を吸うことから、食べ物を噛み潰して、すなわち、咀嚼して飲み込む事へと発達していく過程です。咀嚼能力は多くの器官の協調と統合を必要とする複雑な運動で、この能力を獲得する事に離乳の最も重要な生物学的意義があり、生後4〜5ヶ月頃が生理的・心理的に粗食練習開始の適当な時期と考えられます。調理形態を離乳初期の「どろどろ状」から7〜8ヵ月の「舌でつぶせる」、9〜11ヵ月の「歯ぐきでつぶせる」へ順を追って変化させて、咀嚼能力を高めていく練習を行う事によりはじめて獲得されます。この離乳期というのは「食べる」能力を身に付ける大切な時期なのです。


    ☆☆では胆道閉鎖症児にとってどのような離乳食が良いのでしょうか☆☆
     手術後の管理の為、離乳食開始時期の生後4〜5ヶ月頃はいまだ入院中である場合もありますが、咀嚼能力の獲得の意義や脂肪より炭水化物からのエネルギー摂取を考えると、離乳の開始及び進め方は大幅な遅れがないようできるだけ原則に沿って行う事が望まれます。胆道閉鎖症児の場合、離乳食に対する栄養学的配慮は正常児以上に必要ですが、栄養学の常識通りバランスの取れた食事、すなわち少なくとも穀類・野菜類とたんぱく食品を一定のバランスで組み合わせる原則は正常児と同じです。食品も出来るだけバラエティに富んだものにする事が大切で、肉・魚・卵・大豆などたんぱく食品を中心に配慮すると良いでしょう。胆汁排泄が不良の児では、鶏肉、魚肉を多く与えた方が好ましい。魚肉にはEPA・DHAが多く含まれており、胆汁酸が少ない状態でも多少吸収されやすいため、これらを多く含む魚を出来るだけ多く与えた方が良いのです。また、その調理油として植物油が良い事は、多価不飽和脂肪酸で必須脂肪酸であるリノール酸が植物油に多量に含まれていることから容易に理解できます。もう一つの大事な必須脂肪酸であるアルファリノレン酸は、大豆油に多く含まれています。肝臓の働きが正常の場合はアルファリノレン酸からEPAそしてDHAと変化してそれぞれ必要なだけ体の中で作られますが、肝臓の働きが悪い場合には、アルファリノレン酸からEPAが作られる過程が障害されていてEPAやDHAが作られにくくなっています。EPAはコレステロールを下げる働きがあります。DHAは先に述べたごとく子どもの脳や視力の発達に重要な働きをします。胆道閉鎖症児では、EPAやDHAも不足しやすいですから、EPAを多く含むさば・秋刀魚などのいわゆる『ひかりもの』の魚や、DHAを含んでいる鮭・虹鱒・鱈・鰹・赤身のマグロ・鰯等を多く与えると良い。大豆は良質のたんぱく質及び脂肪の供給源であり、その製品である豆腐・納豆はさらにビタミンKをも供給するので、離乳食やその後の食品材料として大いに利用してよい食品です。
     生後5〜6ヶ月になっても離乳食を開始していないか、開始していても摂取量が不足している場合はファローアップミルクを与えて下さい。9ヶ月頃からは離乳食がスムーズに進んでいても、胆道閉鎖症児の場合は積極的にフォローアップミルクを与えたほうが良いでしょう。生後9ヶ月頃になると健康児でも鉄分が不足しやすくなります。これはこの時期になって鉄の需要量が増すためですが、胆道閉鎖症児の場合は色々な理由で出血することが多いので、健康児よりもさらに鉄分が不足しやすくなります。フォローアップミルクは鉄の含有量が通常の育児用粉乳よりもかなり多く、たんぱく質量も多く含まれているので、乳児後期の栄養面の問題を解決するのに適したミルクです。特に患児にとって健康児以上に積極的に与える価値があります。鉄が不足するとヘモグロビンが減って貧血になるだけでなく、乳児の知的発達が遅れることが分かっています。また、鉄欠乏のある学童は授業中の注意が散漫で学業成績も低下する事がわかっています。


  • 幼児・学童期
     幼児になると1日3回の食事形態になりますが、食の細い児の場合は3回の食事では十分な栄養が取りにくいので、間食が重要になってきます。幼児期には偏食が起こってくる時期ですが、一つや二つくらいのものはあまり気にせず、間食を含めて必要な栄養素を十分食べる事が出来ればよいのです。胆汁流出が悪く肝硬変を伴う場合、魚や鶏肉を多く用い、植物油を調理に用いるなど、乳児の場合と原則的には同じです。学童期の学校給食は、特に制限せずクラスの友達と一緒に食べさせたほうが精神面の上からも良いでしょう。家庭での食事は、乳幼児期の時と同じように栄養的にバランスがとれ、カルシウム・各種ビタミンなどの豊富な食事を十分与える事が大切です。いか・蛸・貝類に含まれるタウリンは、アミノ酸の一種で胆汁分泌促進、コレステロールの低下作用などの種々の生理作用が分かってきています。このようにいか・蛸を含む魚介類は、胆道閉鎖症児にとって好ましい点が多い食品です。日頃の食事に多く取り入れて下さい。
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11. 肝移植:                         執筆者:兵庫県立こども病院 外科 横井暁子
  胆道閉鎖症研究会の1989年から2006年までの集計によりますと、登録された2,130人のうち自己肝で生存されている患者さんは1,167人(54.7%)でした。胆道閉鎖症の半数ちかくの患者さんはいずれの時期かに肝移植が必要となり、また成人されてから移植手術が必要になる患者さんもおられます。ここでは肝移植についてご説明いたします

脳死肝移植と生体部分肝移植
 移植手術は患者さん(レシピエント)の肝臓を全部摘出し、提供者(ドナー)から摘出した肝臓の全部または一部(グラフト)の血管(肝静脈、門脈、肝動脈)及び胆管をレシピエントのそれぞれ血管及び胆管は葛西手術時に作成された空腸脚に吻合する手術です。ドナーが脳死の方の場合を脳死肝移植、両親など健康な方の場合を生体肝移植と呼びます。

1)脳死肝移植

 脳死に至った方の善意によって提供された肝臓の全体または一部を移植する手術です。海外では肝移植は脳死肝移植が主に行われていますが、日本では1997年に臓器移植法が制定されて1999年に国内一例目が行われ、現在肝移植の登録者数は237人、脳死肝移植を受けた人は58人(平成21年1月)です。脳死移植を受けるためには日本臓器移植ネットワークへの登録が必要です。脳死ドナーが現れ肝臓提供があった場合、病気の重症度、血液型、身体の大きさ、年齢、待機期間、場所(グラフト搬送時間)を考慮して、脳死肝移植待機リストの中から日本臓器ネットワークの選択基準に基づいてレシピエント候補が選ばれます。費用は脳死ドナーの臓器摘出を含む移植術91万5000円、グラフトの摘出に行く医師の交通費、臓器の搬送にかかる費用は実費、その他の治療費、入院費は保険適応となりますが、詳細は登録施設に確認してください。

2)生体肝移植
 健康な人から提供された肝臓の一部を移植する手術で、日本では、1989年に初めて行われてから京都大学を中心に3000例以上(成人を含む)の生体肝移植が行われています。ドナーは施設の倫理委員会で決められた条件に合う方となります。最も大事なことはご自分の意思で提供を希望されるということですが、そのほか京都大学では3親等以内、20才以上60才未満(原則)、肉体的、精神的に健康、ウィルス感染症なし、提供する部分の肝臓の大きさが適当であること、組織適合検査でHLA(ヒト白血球抗原)がGVHD(グラフトの中に残ったドナーのリンパ球がレシピエントの体内で増殖し攻撃すること)の可能性がある組み合わせではないことがあげられています。血液型については輸血のできる組み合わせである(適合している)ことが望ましいですが、不適合のドナーでもさまざまな工夫を行って移植手術が行われています。特に患者さんが18才未満の場合、血液型不適合の成績は適合例とほとんど変わりません。(京都大学での血液型不適合症例の5年生存率は1才未満95.2%、1-18才未満89.5%、18才以上48.1%、動脈注入療法導入後は66.2%)
  • 生体ドナー手術
    1. 経 過
       術翌日より離床(歩行練習)、3日目より食事開始、10日から2週間で退院、仕事への復帰は職種にもよりますが、事務職で1ヶ月から復帰する人もあります。体力の回復に応じて3ヶ月ぐらいで復帰が望ましいようです。肝臓の大きさは1ヶ月で切除した肝臓の5.6割までは戻ります。
    2. 合併症
       生体肝移植ドナーの死亡例は、日本で1例(2003年8月)、世界で12例(2007年6月まで)の報告があり、健康な体にメスをいれるのですからあってはならないこととは言え、死亡のリスクはゼロではありません。また、術後の胆汁漏出、胆管狭窄、腸閉塞創感染等の合併症もあります。特にレシピエントが成人(もしくは成人並の体格をした年長児)の場合、グラフトは十分な大きさを必要とするため、ドナーの肝右葉を切除しますが、肝右葉切除はドナーにとっては大きな負担となり、合併症のリスクも高いです。京都大学の2007年度までの症例ではドナー合併症の頻度は、左葉系グラフトで総数18.8%、(全身麻酔下の治療が必要な)重篤なもの2.6%、右葉グラフトでは総数44.2%、重篤なもの17%でした。
    3. 費 用
       レシピエントの保険診療でドナー手術もカバーされます。術後1ヶ月後よりドナーの保険診療に切り替わります。ドナー候補の術前検査はドナー以外の人は自己負担10万円程度です。ドナーの手術は慢性特定疾患や育成医療の対象で、一部負担金のみまたは全額免除される場合がありますので、移植施設へ申し出てください。
       
  • レシピエントの手術
    1. 移植の時期
       待機的に手術を行った方が緊急症例より成績が良いので(京都大学での5年生存率は待機症例で84.9%, 緊急症例では65.7%)、移植の時期の決定は大変重要です。一般的に胆道閉鎖症の移植手術の適応は以下のようになっています。
         
       @ 葛西手術で減黄が得られなかった場合、
          症状 体重増加不良、重度の?痒、
          血液検査 総ビリルビン10mg/dl以上、
          血清アルブミン 3.0mg/dl以下
          プロトロンビン時間正常値の3秒以上の延長
       A 葛西手術で減黄が得られた場合、
          繰り返す胆管炎、
          繰り返す門脈圧亢進症性消化管出血
          肝肺症候群(肺内シャント、肺高血圧症)


       
      • 肝肺症候群の合併は移植の大きなリスクとなります。肝機能は良くても息切れなどの症状がある場合は早めに調べてもらいましょう。早期であれば肝移植により症状が軽快することが期待できます。肺高血圧症はよほど重症にならない限り無症状ですので、ほかの門脈圧亢進症の症状がある場合は定期的に心エコーでチェックしたほうがよいでしょう。肺高血圧症を合併している場合の移植手術は非常に危険ですので肺高血圧をコントロールしてからとなります。

       上記にあてはまるような症状がある場合は主治医と相談の上、早めに移植施設を紹介していただくとよいでしょう。まず移植外科医より移植の話を聞いていただき、その後は移植外科医とご家族、主治医が連絡をとりあいながら慎重に移植の時期を決定することになります。
       肝不全が進行すると、黄疸、肝機能悪化、凝固機能低下等がすすみ、難治性胸水、腹水、特発性細菌性腹膜炎、重篤なるい痩、全身倦怠感、進行する低栄養状態、肝性脳症など重篤な状態になります。このような状態になると感染のコントロールがつき次第可及的早期に移植しなければ救命は困難となります。

    2. 待機中の注意
       予防接種(麻疹、水痘など)は可能なかぎり移植手術の1ヶ月前までにすませておきます。移植後には免疫抑制剤を服用するために基本的には予防接種はできません。
       歯科、耳鼻科受診をして、虫歯、中耳炎などの感染症があれば治療をしておいてください

    3. 生体肝移植の流れ
      移植施設への紹介→移植施設での初回説明→生体ドナー候補者の適応検査→待機→手術予定日の約1週間前に入院→全身状態の最終チェック、各専門医(麻酔科、口腔外科、耳鼻科など)受診→手術の説明→最終意思確認→移植手術→術後約5日間集中治療管理(出血、血栓、縫合不全、感染症、呼吸器合併症に留意)→術後1週間から2週間は一般病棟個室(出血、血栓、縫合不全、急性拒絶反応、感染症のチェック、食事開始、離床開始)→2週間以降1ヶ月は一般病棟(急性拒絶反応、感染症、胆汁の漏れや胆管吻合部の狭窄のチェック)→1ヶ月から2ヶ月で退院→退院後、術後2ヶ月は一週間毎、その後安定していれば2週間毎、一ヶ月毎、と徐々に間隔をあけて受診。

    4. 退院後の注意
      @ 免疫抑制剤をはじめ処方された薬は決められた時間に決められた量を服用、飲み忘れることがない様に注意してください。

       移植後のお薬:
      • 免疫抑制剤
        拒絶反応を押さえる薬です。基本的に一生飲み続ける必要があります。副作用に、感染、腎障害、糖尿病、神経症状、肝障害など、重篤なものがあります。このため血中濃度を測りながら、拒絶反応を抑えて、副作用がでないような治療域に保つように厳密に量をコントロールします。術後3ヶ月はステロイド剤も使用しますが、ステロイド剤は適宜中止、再開となります。また拒絶反応が起こった場合はステロイドの短期大量療法(パルス療法)で治療します。
      • 抗血栓薬
        術後3ヶ月は吻合した血管に血栓ができて詰まらないように服用します。3ヶ月を超えると適宜中止となります。
      • 抗ウィルス薬
        術後6ヶ月はウィルス(特にEB ウィルス、サイトメガロウィルスは移植後の重篤な感染症を引き起こします。)の増殖を抑える薬を服用します。6ヶ月以降は、問題なければ中止、必要に応じて継続になります。
      • 抗原虫薬
        カリニ肺炎を予防します。約1年服用します。
      • 利胆薬
        ウルソを約1年間服用します。

      A 規則正しい生活を心がける。
       免疫抑制剤服用中ですので、手洗い、うがい、マスク着用(特に術後3ヶ月までの外出時)、人混みをさける、歯科治療時の抗生剤服用など、感染には十分留意してください。発熱時にはすぐに主治医か移植施設に連絡し受診するようにしてください
      B 食事の制限
       術後3ヶ月までは加熱食、個別パックされたもののみとなります。刺身などの生ものは術後6ヶ月以降より許可されます。免疫抑制剤の血中濃度に影響するグレープルルーツは原則中止となります。
      C 社会生活
       退院して肝機能が安定していれば徐々に行動範囲を広げ、仕事や学校へは半年後ぐらいから体調がよければゆっくり復帰してください。流行病(インフルエンザ、水疱瘡、おたふく、はしか等)があれば職場や学校から連絡をもらい、流行が収まるまで休むなどの対策が必要です。

    5. 肝移植後の検査
      • 血液検査
        肝機能、免疫抑制剤の血中濃度、血算(白血球、赤血球、血小板の数の異常をチェック)
        腎機能、電解質、尿酸、膵酵素など(免疫抑制剤の副作用のチェック)
      • 超音波検査
        グラフト肝に流れる門脈血流、動脈血流(術後時間がたつと不明瞭になることあり)、心臓にかえる肝静脈血流をドップラーエコーでチェック、胆管拡張の有無(胆管吻合部狭窄をチェック)、その他腹部スクリーニング
      • 肝生検
        入院し全身麻酔(年長児や成人では局所麻酔)下に、超音波で確認しながら、生検針で大きな血管のない部位の組織を採取し顕微鏡の検査(病理検査)に提出します。病理医が拒絶の有無、薬剤性肝障害、ウィルス性肝障害、自己免疫性肝炎などの有無を診断します。肝機能の悪化時には原因検索及び治療のために必要です。肝機能が安定している場合は年に一回程度定期的に行うことが望ましいです。
 脳死肝移植が普及しない日本では、現実的には生体肝移植しか方法がない場合が多く、生体肝移植手術だけを考えれば、年長児になればなるほど、ドナーから提供されるグラフトが体に対して小さくなること、肝肺症候群を合併する頻度が高くなること、血液型不適合の問題、そしてドナーは高齢になり、また右葉切除となることで、ドナー合併症のリスクが高くなることなど、移植を成功させる上では望ましくない問題が多くなります(京都大学での5年生存率 1才未満87.7%、1才-10才86.1%、10才-18才74.1%、18才以上70.9%)。しかし、健康な体にメスを入れる生体肝移植は、治療法の一つとして確立されたとはいえ、なお緊急避難であり、肝移植しか救命できる方法がないときに選ばれる方法です。また、移植肝の線維化など、移植後長期になって出てきている問題もあり、自己肝をできるだけ温存しながら生活の質をいかに保つかが重要です。生体肝移植手術を選択するかどうか、選択するのであれば、どのタイミングがよいかを、ご家族だけで悩まず、主治医、移植外科医と随時相談していただきたいと思います。
(京都大学附属病院移植外科 移植のためのガイドブック http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~transplant/6guidebook.html)
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12. 学校・日常生活での注意点:
 無事に手術が終わり、黄疸もかなり軽減したところで退院となると、いよいよご両親による家庭での管理が始まります。子どもさんを終始見守っているのはやはりご両親ですので、不安も大きいことでしょう。手術後の時間経過とともに注意点も変化しますので、管理上強調すべきポイントを年齢別にまとめてみました。
  • 最初の1年間
     最初の1年、特に半年間はとても重要です。特に術後6ヶ月はまだまだ胆汁の流れが安定しておらず、胆管炎の治療開始が数日遅れれば胆汁排泄が止まってしまう可能性もあると思って下さい。また、生後6ヶ月を過ぎると、母親からもらった様々な抗体は消えて行きますので、風邪などウイルス性の疾患にかかる可能性がでてきます。ただの風邪かもしれないし、胆管炎の熱かもしれないので注意が必要です。胆管炎のところで解説しましたが、熱のみで胆管炎も頭の片隅においておかねばなりません。咳や鼻水など明らかな風邪の症状がないのに熱がある時には、胆管炎も考えられるので主治医に連絡すべきです。また、風邪に引き続き胆管炎になる場合もあるので、単なる風邪だと思い込まないことも大事です。
     風邪はウイルスが原因ですので、抗生物質は効きません。安静と十分な水分と栄養摂取が治療です。鼻や喉にくる上気道炎と嘔吐や下痢など胃腸にくる胃腸炎の場合があります。下痢の時には食事やミルクをやめ、アイソトニック飲料など一旦水分のみにします。何を飲んでもすぐに嘔吐や下痢をするようならば絶飲食で点滴が必要になります。水分のみにして下痢がおさまればアップルジュースなど繊維の多いものにしていきます。また、ミルクを半分の濃度で開始してもかまいません。不消化なものや油物は最後にします。脱水は胆管炎を起こしやすくさせるので、特に水分を十分にあげてください。
     この時期で大切なことは予防接種をきっちりと行うことです。黄疸があっても予防接種は可能です。特に肝移植のことを将来的に考えなければならない場合には重要です。免疫抑制が行われると予防接種は無効もしくはしてはいけない状態になるからです。開業医が接種を躊躇するようなら、主治医と相談して下さい。また、けいれんやアレルギーのある場合には要注意です。
    • 定期接種:BCG、ポリオ、3種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風)、麻疹、風疹、日本脳炎
    • 任意接種:インフルエンザ、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、水痘

  • 乳 幼 児 期
      肝臓がある程度は腫れていることが多いので、腹部が普通の子どもさんより目立つかもしれません。そのために動作が少し暖慢かもしれませんが、しっかり歩き始めるとお腹の筋肉も発達してきますので、スマートになります。もし、肝硬変を伴ってきているのであれば脾臓も大きくなりますので、さらに上腹部は大きくなります。このような子ども達には定期的な食道静脈瘤の検査や血液検査で脾機能亢進症のチェックが外来で行われます。鼻血が出やすいときには、血小板が下がっているのかもしれません。また、解熱剤を使用すると血小板機能を抑制するので、出血のきっかけとなることもあります。
     子どもにとって団体生活は重要で、お腹が人より大きくても通常の保育所や幼稚園に行けます。入園にあたっては、団体生活の注意点など主治医と良く話し合っておくことと、場合によっては幼稚園側が必要以上に恐れることもあるので、幼稚園に主治医から手紙を書いてもらうなど、幼稚園の先生に不安が残らない様に納得のいくまで主治医と話し合ってもらうようにしましょう。
     一般的には、病弱な子どもに対して親はどうしても甘やかしてしまう傾向があります。病気のわが子を不憫に思うのでしょうが、それが本当の愛情なのかどうかをよく考えてください。子どもに対する躾やけじめは健常な子どもと同じようにするべきです。
  • 学童期
     小学校にあがる時には、体育などの活動の制限は患児の病気の程度でまちまちですので、幼稚園と同様、学校側への理解をしっかりと求めておくべきでしょう。校長先生や担任の先生と主治医との面談も必要になるかもしれません。本人の意向を大事にしてあげたいところですが、肝硬変が進んでいるケースでは、実際持久力を必要とするようなスポーツは肝機能を悪化させます。脾臓が腫大していて鉄棒など運動制限を加えるくらいなら部分的脾動脈塞栓術を受けさせて、運動制限から解放してあげた方がいいでしょう。また、胆汁排泄が不十分で少しでも黄疸が残っているような患児ではビタミンDやカルシウムの吸収が不十分で骨折しやすい状態にあるので、コンタクトスポーツに対しては注意が必要です。
     小学校高学年から中学生になってくる頃に、患児は自分の病気について知りたくなります。外来でそれまでは親と主治医の会話を聞いても分からなかったのが、段々と理解できるようになり、自分が深刻な病気であることが見えてくると大変不安になってきます。ご両親は、この時期を機敏にとらえて病気のことをしっかりと隠さずに説明するべきです。また、主治医からも医学的に説明してもたったほうがいいと思います。そして、自分の体は自分で管理するという習慣にしていったほうがいいでしょう。
  • 思春期
     この時期は成長期でもあり、心身共にめざましい発達をする時です。第2次性徴は正常に見られることが多いのですが、女性では初潮は少し遅れ気味で、平均14歳で見られるそうです。自分の肝臓についても自己管理をできるように、これまでに胆道閉鎖症の告知をしておくことは重要です。もしこの時期までに告知が済んでいなければ、早期に話し合い、本人が病気と向き合えるように支援してあげてください。肝機能により個々のケースでまちまちですが、これまでほとんど問題のなかった患児でも肝臓がこの成長に追い付かず、十分に成長はしたが、その後に肝不全になり肝移植が必要となったというようなケースもあるので、注意が必要です。
     胆管炎はこの時期でも起こることはあります。もし起こるようであれば、画像診断で肝内胆管の状態を把握しておく必要があります。また、小児慢性特定疾患は20歳までしか助成していないので、この時期になると医療費の問題がでてきます。
  • 社会人
     就職は人生の大きな出来事です。まったく順調な人ならほぼ問題はないようですが、立ち仕事や体を使う仕事は、本人の肝機能の程度にあわせて慎重に選ぶべきでしょう。仕事によるストレスや疲労は肝機能を悪くさせる可能性もあります。喫煙、飲酒はできるだけ避けるべきです。女性の場合には妊娠、出産という大きなイベントを乗り越えなくてはなりません。妊娠そのものが胆汁うっ滞を引きおこすので、妊娠中に胆管炎を起こしやすくなる可能性もあり、結婚相手には胆道閉鎖症という疾患の理解を求めておくことは必要だろうと思います。
  • 家族への配慮
      患児に専念するあまり、元気な兄弟姉妹への配慮が不足がちになることは、難病の子どもを持つ家庭に見られる共通の傾向です。兄弟姉妹には、病気が難しいこと、肝移植が必要になることもあるというような真実の説明をするべきです。子どもは本当のことを知らされないと、兄弟姉妹は誤解からいろいろと自分達のイメージを被害妄想的に膨らませることがあります。兄弟姉妹を祖母などにまかせっきりにして孤立させないようにし、スキンシップを持ち、一緒に時間を過ごす工夫が必要です。兄弟姉妹が疎外感を持ったり、「愛されていない」という感覚をもち成長すると、後になってうつ病など精神的なトラブルを抱えてしまうことがあると言われています。
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13. 患者さんの声:

 K.Y.さん
  私は、生後約2ヶ月目で胆道閉鎖症の手術を受けました。手術は成功し、術後の経過もよく小学4年生までは定期健診を受けながら、何事もなく生活しておりました。しかし、小学4年生のお正月に食道静脈瘤が見つかり、5年生の春に入院し治療していただきました。難病とは言っても手術をした記憶はなく、手術後の経過も問題のなかった私は、病気という事をあまり意識せずに育ちました。しかし、小学5年生の時はさすがに病気である事と、その病気の重さを認識せざるを得ない状況になり、不安と恐怖を強く感じた事を今も覚えています。食道静脈瘤に関しては、硬化療法により無事治療していただく事ができましたので、その後も普通に生活をしていく事ができました。ただ、小学5年生という、ある程度物事の状況が理解できる年齢で病気の事を強く認識せざるを得ない状況になった事は、今では良かったのではないかと思っています。その事で、自分の病気の重さ、親の苦労や心の葛藤、さまざまな病気と闘っている同世代の子供たちの気持ちを知る良いきっかけになりました。
 現在は、大阪で心理カウンセラーとしてオフィスを経営しています。私は、比較的病気による苦労は軽い方だったと思いますが、多くの方とそのご家族は、病気の症状だけでなく、それに伴う不安や恐怖、葛藤と闘っておられます。私は、仕事を通じそのような方達の心のケアを行っていきたいと考えております。難病を抱える人たちにとっては、病気の症状だけでなく、病気に伴う心の問題も大きな障害となります。手術やその他の治療と検査、服薬など病気を治療する上で、患者は病気だけでなく治療自体とも向き合い、闘っていかなければならなく、病気によっては、一生治療を必要とする場合もあります。そして、そういう人達は少なくありません。だからこそ、心のケアと心の成長をサポートできる存在が不可欠であり、私は患者とそのご家族の持つ不安、恐怖、葛藤を聴く事で心を支え、心の成長をサポートするカウンセラーという立場から、難病と向き合っていきたいと思っています。
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14. 門脈圧亢進症:
 肝臓が繰り返す胆管炎などで障害を受けると瘢痕化し硬くなっている状態を肝硬変と呼びますが、そうなると肝臓内の血液がスムーズに流れなくなり腸管から肝門部を通り肝内に流入する門脈血流の圧(すなわち門脈圧)が高くなる。門脈圧亢進症と呼ばれるこの病態は、やがて門脈血の逆行を引きおこし肝臓から遠ざかる方向で胃上部や食道壁内の血管を通って胸部へと血流は上行し胸の血管を使って心臓にもどるような血行動態を引き起こします。大量の血液が通過するため通常は細いはずの食道粘膜下の血管が太くなり、それらの血管が食道静脈瘤と呼ばれる状態になります。本症では、比較的早期に葛西手術が行われた場合でも、すでにある程度の肝硬変はみられることが多いのです。また、脾臓では逆流してきた血液を受け、うっ血による腫大が起こります。脾臓は古くなった血球や血小板を壊すのが仕事ですので、血液が充満するためそれらの破壊が亢進し白血球や血小板は低下してきます。血小板が5万以下となると出血が止まりにくくなるといわれています。
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15. 食道静脈瘤:
  • 症 状:静脈瘤血管の破綻による出血(吐血,下血)貧血、ショック症状があります。
  • 治 療:
    1. 緊急止血法
      まず、全身状態の安定(輸血)と速やかな止血(胃・食道内バルーンカテーテルで圧迫)を得たのち、硬化療法(EIS)が行われます。
    2. 待機的・予防的治療法
      食道透視・前回内視鏡所見により、硬化療法(EIS)を施行します。その後の経過観察は静脈瘤の形や色(直線状・蛇行・数珠状、白色・青色、血豆の発赤所見有無など)で、3ヶ月から1年などの間隔をおいて定期的な内視鏡検査が勧められます。
    3. 手術療法
      肝移植が普及した今日、門脈血流を下大静脈という肝臓を通過しないで心臓にもどる血管に繋ぎなおす血管の付け替え手術(シャント手術)は行われなくなりました。これを行うと肝移植が複雑になるからです。ただ、いろんな事情で肝移植ができない場合もあり、致命的な出血に対しては他の方法で止血が得られなければ、シャント手術を選択するしかありません。線引きは難しいのですが、概略10歳以上では脾腎静脈シャント、10歳以下では上腸間膜静脈・下大静脈シャント(Mesocaval shunt)が選択されます。
       食道から胃の周囲をとりまく食道静脈瘤自身を縛ってつぶしていく手術もかつて行われましたが、肝移植が日常化して今日、ほとんど行われなくなりました。
  • 治療方法
     全身麻痺下に食道内視鏡を挿入し、静脈瘤を直視下に針で穿刺し、硬化剤(オルダミン)を注入する方法とO-ringと呼ばれる輪ゴムを静脈瘤の血管にかけ絞めつける方法があります。
  • 入院経過
    入院後、内視鏡による処置が済むと48時間は完全絶食となります。3日目より水分摂取が始まり、食事形態を挙げていき、もう一度見る必要がなければ、7日目頃に退院となります。
    残存する静脈瘤を確認するために、もう一度みて処置を加えれば、また同様の術後管理が必要となります。しばしば、粘膜保護材のサンメール(5日間)や胃潰瘍治療剤のガスター(5日間)が処方されます。その後、ウルソなどの胆道閉鎖症内服薬が開始されます。
  • 合併症(数字は%)
    食道潰瘍(31)、発熱(23)、胸痛(22)、胸水貯留(5)、胃潰瘍(2)、ショック(2)、肝機能障害(1)、門脈血栓(0.3)、食道穿孔(0.3)、長期的には食道狭窄(4)もあります。
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16. 脾機能亢進症:
 1)まず脾臓についての知識を整理しましょう
脾臓は大動脈から血液を供給され、門脈に血液を供給します。
(1)脾臓も血液を貯留する機能があります。
(2)脾臓の重要な働きは老廃血球の処理です。赤血球には寿命があり、寿命に達した赤血球は脾臓の細胞に貪食されて溶解処理されます。この際にビリルビンの元となるヘモグロビンの産物が門脈血中に流され肝臓に運ばれます。傷んだ白血球や血小板の処理も行います。
(3)脾臓には免疫の記憶を担当する白血球が保存されます。特に、莢膜を持つ細菌(枯草菌、肺炎双球菌など)に対する免疫には脾臓が不可欠で、脾臓の摘出はこれらの細菌に対する抵抗力を下げることになります。
2)脾機能亢進症とは
 術後十分な胆汁排出が得られなかったり、何らかの炎症が持続すると肝臓自身に改変が生じ硬くなっていきます(肝硬変と呼ぶ)。肝臓が硬くなると、脾臓からの血流が門脈に流れにくくなり、脾臓にうっ血が生じ脾臓が大きくなります(脾腫と呼ぶ)。そうすると血球や血小板が通常より多く破壊され、特に白血球や血小板が減少するのですが、この状態を脾機能亢進症と呼んでいます。心配すべきは出血傾向だけではなく、あまりに脾臓が大きくなると腹部打撲で破裂する危険もあり、運動制限も考えなければなりませんので、何らかの処置が必要です。脾臓摘出というのも一つの方法ですが、まったく脾臓がなくなるのも感染に対して弱くなる可能性があり、開腹することなく脾の一部を壊死に陥らせる部分脾動脈塞栓術という放射線科の技術があります。

部分脾動脈塞栓術(partial splenic embolization、PSE)
【目的】血小板数が5万/mm3以下になると出血傾向が現れるので、そのようになるまでに脾臓の一部の動脈を塞栓し、脾臓の容量を減少させ脾機能を抑制します。
【手技】太股の付け根の部分に動脈が走行しています(大腿動脈)。この部分を穿刺し、細いカテーテルと呼ばれる管を挿入します。このカテーテルの先端を脾動脈に持っていき、塞栓物質を注入して脾臓を塞栓します。
【注意点】脾臓をどの程度塞栓するかは個人の状態に応じて考える必要があります。脾臓の50〜70%程度を塞栓するのが一般です。我々の今までのデータを解析すると患児の体重より算出した標準脾臓容積の5倍以内まで容積を減少させれば効果が得られることが分かっており、今後この指標に沿って塞栓の割合を考えます。しかし、この指標で塞栓する脾臓容積がかなり多い場合(例えば70%を超える場合など)、前述した側副血行路の発達具合に応じて、一回で行うか二回に分割するかを考える必要があります。
【合併症】穿刺部では出血、感染、穿刺動脈の血栓、動脈の近くの静脈の血栓などがあります。脾臓では感染(膿瘍)、また、カテーテルによる動脈の血栓形成と閉塞、動脈瘤、出血などが起こり得ます。もし、大腿動脈が閉塞すればまれに遠隔期の合併症として、足の脚差が生じることもあります。また、脾臓の約半分が壊死するわけですから、発熱と痛みは必発です。これについては解熱剤や鎮痛剤で対処します。
【術後処置】術後は壊死したところから出血しやすく、固まってくるまでは安静にすることが重要で、2〜3週間入院ということになります。具体的には、次のような計画で管理しています。
1)術後24時間は絶対安静で、その後2週間はベッド上で安静にし、その後は歩行可能とします。
2)痛みに対しては、鎮痛剤の注射や座薬を使用し、特に学童期の患児には鎮痛剤の持続投与の上にさらに痛みの強いときに自分でボタンを押して痛みをコントロールできるようにしています。
3)抗生物質も点滴で2週間、経口で1週間投与します。
4)検査として、1週間後にエコー、2週間後にCTスキャンを行っています。
5)適宜採血し、血小板数を見ます。
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17. 肝肺症候群:
 肝硬変になると、肺の血管に異常がおこることがあり、この病態は肝肺症候群と一つにまとめて呼ばれている。これには二つのまったく異なる病態が存在します。一つは肺内シャントと呼ばれ、肺の末梢血管が太くなり肺胞での酸素の交換に与らない血流が増え、体内の酸素が不足する場合で、この病態は肝移植で改善します。もう一つは肺高血圧症と呼ばれる病態で、肺血管は逆に縮まっている状態です。原因は不明で、症状も低酸素による突然の意識消失で発症することがあり、注意を要します。肺血管を拡張させる薬を必要とし、日常生活に酸素吸入は不可欠となるので、早期発見、早期の肝移植が必要で、収縮期肺動脈圧が60mmHgを越えると手術には耐えられないとされています。
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18. 出産:
 長期生存症例を多くフォローしている東北大学からの報告(2008年12月現在)では、妊娠を経験した女性は11人で、合計16回のお産を経験したそうです。その中で2例に出産後に肝機能が悪化しています。このように成人に達し妊娠・出産まで到達する患者さんはそもそも肝機能もほぼ正常の方が多く、妊娠・出産も問題ないことのほうが多いようです。一方、出産が肝機能に影響を及ぼしている場合もあるようですので、妊娠出産に対しては慎重に対処しなければならないでしょう。この病気を理解している小児外科医のいる総合病院での出産が望ましいでしょう。
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